新車試乗レポート
更新日:2020.01.22 / 掲載日:2020.01.22
【試乗レポート ホンダ ヴェゼル モデューロX】価格差にも納得の上質な走り味

ヴェゼル ツーリング モデューロ X Honda SENSING
文と写真●大音安弘
ホンダの人気コンパクトSUV「ヴェゼル」に、新しい仲間となる「モデューロ X」が加わった。そもそも「モデューロ X」とは、ホンダの純正用品を展開するホンダアクセスが生み出した純正コンプリートカーだ。同シリーズでは、標準車と差別化を図った個性的かつ機能的なデザインに加え、走りの愉しさを追求しながらも、快適性もしっかりと確保するバランス感覚に優れたクルマ作りを行っている。その開発は、ホンダ車を知り尽くした技術者が手掛けるだけでなく、ホンダの北海道・鷹栖のテストコースなどで走行テストを繰り返すなど、徹底した作り込みを行っているのも大きな特徴だ。ただ専用パーツを新車製造工程で装着することで、価格を抑えており、比較的購入しやすいコンプリートカーとなっている。その最新作となるのが、ヴェゼル・モデューロ Xなのだ。
モデューロ Xとして初のSUV、4WD。ターゲットは熱心なホンダファン

シリーズ第6弾となる「ヴェゼル」では、SUVと4WDモデルの開発に初挑戦しており、モデューロ Xの新境地を開拓した。ベースのヴェゼルもFF中心だけに4WDの設定は必要か疑問だったが、開発者によれば、降雪地で愛車を使用するユーザーから寄せられた4WD仕様のモデューロ Xを投入してほしいという声が設定の理由だという。ただ決して万人受けするクルマを作りたかった訳ではなく、コンセプトの「3%の熱狂的なファンを大切に」という言葉が示すように、熱心なホンダファン向けたクルマを目指している。
ノーマルとの違いは? フロントシートが専用設計となった理由

ヴェゼル ハイブリッド モデューロ X Honda SENSING
エクステリアは、専用エアロパーツを追加することで、スポーティなスタイルに仕立てるだけでなく、空力特性を向上。フロントマスクはヘッドライト以外のすべてを一新した専用デザインとなっており、通常のヴェゼルとは異なる存在であることを強調する。またアクセントとして一部のパーツをブラック化することで、スタイルを引き締めている。一方、インテリアは、なんとフロントシートを専用開発。これまでのモデューロ Xでは、表皮の変更までにとどめており、シート自体に手を入れるのは、今回が初の取り組みとなる。このシート、フレームこそヴェゼルのものだが、バネ、クッション、表皮、形状など全面的な改良を施したもの。このため、ベース車にはないヘッドレスト一体型スポーツシートとした。また後席は表皮のみの変更となるが、これにより座り心地の改善などを図っている。

鷹栖で練り上げた足まわりは、グレードに合わせて、なんと3タイプを設定。つまり、ハイブリッド(FF)、ハイブリッド(4WD)、ツーリング(FF)すべてで味付けが異なる。簡単にキャラクターを説明すると、ハイブリッド仕様は、コンフォート重視。ツーリングがもっともスポーティな味付けだという。またアルミホイールも専用デザインとなり、ホイール自体の剛性バランスを含めて考慮した設計とした。タイヤとホイールのサイズは、ベース車同様となり、ハイブリッド(FF)とツーリング(FF)が18インチ、ハイブリッド(4WD)が17インチを組み合わせる。タイヤ銘柄についてもベース車のものを引き継いでいる。
変更点が足まわりとエアロだけとは思えないモデューロ X驚きの走行性能

用意された試乗車は、ハイブリッド(4WD)とツーリング(FF)の2台。走行性能では、「3秒後の走り出しから体感できる満足感」をコンセプトに掲げているが、正直、そこまですぐ違いが分かるものなのかと思っていた。何しろ、走行性能を高める仕様の違いは、エアロパーツと足まわり程度なのだから……。
しかし、その疑念は一瞬で払拭(ふっしょく)された。走りはじめると、すぐに違いを実感。通常のヴェゼルにはない、どっしりとした落ち着きある走りなのだ。ヴェゼルは、軽快な走りが魅力である一方で、そこが安っぽいとも感じられるシーンもあった。それがまるでボディ剛性を上げたかのように、シャキッとしているのだ。
コーナーでの姿勢と安定感もベース車とは段違い。路面に触れるような正確なステアリングインフォメーションが伝わってくることで、ねらったラインをきれいにトレースすることができる。また旋回中のロールも抑えられているので、コーナリング中の安心感も高い。クルマとのシンクロ感があり、安心して運転が楽しめた。さらに高速走行時の音や振動も抑えられており、まるでより上のクラスのSUVを運転しているようなのだ。限定的な範囲での改良で、ここまでの違いを生むのだから、その作り込みには多くの時間を要したことだろう。
新開発のシートも秀逸で、乗降性に優れるゆとりあるサイズながら、滑りにくい表皮とサイドサポートのよさでしっかりと体をホールド。しかも座り心地もかなり良い。これならロングドライブでも疲れは最小限に抑えてくれそうだ。
電子制御4WDについては、ドライ路面ということもあり、とくに活躍シーンを感じることはなかったものの、路面状況やコーナリング時など状況に応じて、小まめに後輪側にも駆動を配分してくれる。ただ雪上やウエット路面などでは、モデューロ Xの安心感ある動きを支える強い武器となることだろう。
ツーリング仕様のモデューロ Xはさらに機敏な走り

ヴェゼル モデューロ Xに搭載されるエンジンはベースモデルと同様
ターボエンジンを積む「ツーリング・モデューロ X」でも、「ハイブリッド・モデューロ X」で感じた魅力はそのままに、力強いエンジンの実力をより発揮できる足まわりとなっているのが好印象だった。ベース車のツーリングだと、ツアラー的キャラクターが際立っていたが、モデューロ Xでは、足まわりが固められたことで、より機敏な動きを可能としており、よりアクセルを安心して踏めるシーンが拡大。ターボらしいシャープな走りがより積極的に楽しめるなと感じた。いちおしは、間違いなく、よりターボの魅力を引き出した「ツーリング・モデューロ X」だ。ツーリングの素性の良さをより引き出し、もっとも走る楽しさと快適性のバランスも図られており、魅力的に移った。
ここが惜しい! モデューロ Xの残念なところとは……

ホイールは専用品ながらタイヤはベースモデルと同じ銘柄、サイズを履く
では、ハイブリッドはイマイチなのかといえば、そうともいえない。たった1点を改善すれば、劇的に魅力が高まると感じているからだ。その明暗を分けたのは、タイヤである。ベース車からのキャリオーバーとなるタイヤは、ハイブリッドが横浜タイヤ製「アドバンA10」で、ツーリングがミシュラン製「プライマシー3」を装着している。ハイブリッドは、路面のギャップを超えた際、とくに高速域だとタイヤが跳ねる印象があり、タイヤの硬さが感じられた。しかし、ツーリングでは、もっとも硬めの足まわりにもかかわらず、高速域でのショックもきれいにいなしていた。もしハイブリッド・モデューロXのキャラクターにマッチするタイヤに交換できれば、モーターアシストにより街中やワインディングで俊敏な走りを得意とする「ハイブリッド」の評価は群と高まったと思う。それだけにじつにもったいないというのが本音である。今後の改善に期待したい。
ヴェゼルとして考えると高価ではあるが、格上のSUVと比較できる実力の持ち主

購入者とって最大の難関は、価格だろう。もっとも高いグレードでも車両価格が300万円以内に収まるベース車に対して、モデューロXは、車体だけで350万円前後にもなる。総額は400万円に迫る勢いだ。もちろん、ホンダアクセスも現実的な価格を目指して、モデューロXの追加装備の総額が約81万円(工賃込)となるところを、ツーリングの場合、57万2000円高に収めており、約23万8000円お得な設定にしている。ただそれでもなかなかの価格であることは否めない。ヴェゼルの購入を検討しているひとには、ハイブリッドRSやツーリングなどよりもずっと高価なモデューロXは、選びにくいだろう。
ただコンパクトな上質なSUVを探し求めているなら、話は一変し、まずはモデューロXを検討すべきだと助言したくなる。たしかに高価ではあるが、その価格差以上の移動の喜びを得ることが出来るだろう。通好みのクルマであるが、その対価を払うだけの価値は、だれにでも間違いなく感じられる。それがヴェゼル・モデューロXというクルマである。
ホンダ ヴェゼル ツーリング モデューロ X Honda SENSING(CVT)
全長×全幅×全高 4335×1790×1605mm
ホイールベース 2610mm
トレッド前/後 1535/1540mm
車両重量 1360kg
エンジン 直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1495cc
最高出力 172/5500rpm
最大トルク 22.4kgm/1700-5500rpm
サスペンション前/後 ストラット/車軸式
ブレーキ前/後 Vディスク/ディスク
タイヤ前後 225/50R18
販売価格 346万7200円~361万7900円(全グレード)